27話「真冬の出会い」




 「文月は、どうして俺の話なんか聞きたいんだ?もの好きだな」
 「私、桜門さんが好きだって言ったじゃないですか」
 「………本当に物好きだ」


 そう言う桜門の声は、とても優しい。
 文月はハッととして彼の表情をまじまじと見つめると、そこにはいつもの桜門の笑みがあった。
 いつもの彼に戻った。それが嬉しくて、文月は緊張の糸が緩んでくる。
 どんな彼も愛おしいと思うが、優しい笑みで名前を呼んでくれる桜門が1番好きだな、と文月は改めて思った。
 「こっちにおいで」と、文月を呼んだ桜門は立ち上がり、文月に向けて手を伸ばした。文月は彼の手をとると、桜門は手を軽く引き上げ、文月の体をふわりと立たせてくれる。そして、ゆっくりと歩き始める。桜の花びらと銀色の髪がひらひらと揺れる。歩く度にしゃらしゃらと宝石が音を奏でる。そんな景色がもう少しでおしまい。この冷たい手と繋げるのもあと少し。
 そう思うと胸が苦しくなり、瞳に込み上げてくるものがある。
 けれど、それをグッと我慢して、彼の後ろ姿を見つめる。
 それを記憶に焼き付けるように。

 彼が連れて行ったのは、前と同じ桜並木の中でも1番太くて大きな桜の前だった。
 そこに2人で腰をおろす。
 


 「では、話そうか。約200年前の昔話を」
 「うん」
 「」



 桜門は話をスタートさせても、繋いだ手を離そうとはしなかった。
 冷たい手とまだ温かい手は、お互いの体温を感じ、そして混ざり合いながら、ぎゅっと強く握られ続けた。



 それがあと短い時間で離れる事を恐れるように、強く強く繋がっていた。