「身代わり依頼の仕事。私が代わりにします」
 「なっ」
 「なんで驚くんですか。桜門さんが望んだ事なのに。それに、取引したんですから、今さら止める事なんてないですよ」
 「身代わりの仕事をするなら、おまえは死ぬことになるんだぞ」
 「それもわかってます。だって、桜門さんも死人なんですから」
 「文月・・・おまえ・・・」


 先程まで動揺していたのは文月だったが、何故か桜門が驚いた表情をしており、立場が逆転している。文月がこうも簡単に受け入れると思っていなかったのだろう。
 文月だって、死ぬのだと言われると怖いのは当たり前だ。
 けれど、自分は命を助けられた。そして、身代わりの力を使って大切な人たちを守る人々の姿を見てきた。
 残った人の気持ちもわかる。けれど、身代わりの力で大切な人を助けたいと願う人々が、とても輝いてみえた。そして、この人たちは後悔をしていない、と。
 自分に置き換えてみても、決して後悔はしないだろうと思った。
 桜門の願いでもあるのだ。彼だって苦しむことはないはずだ。

 出会ってから、わずかな時間しか関わっていないけれど、桜門に惹かれてきた。
 助けてもらい、必要としてもらい、優しくしてくれた。今の世界では、彼だけが文月の味方だった。
 そんな幸せをくれた人の願いを叶えたい。苦しみを取り除いてあげたい。
 そう心から思うのだ。

 でも、やはり桜門と会えなくなるのは寂しい。
 こうやってずっと2人で身代わり依頼を受けていければ、と思っていただけに苦しさが募る。
 だから、あと少しだけ、彼との時間が欲しいと思ってしまう。


 「好きになった人になって人の願いを叶えたくなる。やっと、祖母の気持ちがわかったような気がします」
 「…………」
 「でも死ぬ前にいろいろお話聞かせてください。桜門さんの昔の話しを」



 桜門とのわずかな時間を得ようと、文月は生前の桜門の話を聞きたいと願った。
 その時の彼の顔はとても悲しそうで、そして遠い瞳で大きな桜の木を見つめていたのだった。