26話「計画」




 高笑いを繰り返した桜門を唖然と見つめながら、文月は「あぁ、彼はこんな風にも笑えるのだ」と漠然と思った。
 いつも綺麗で優しい笑みを浮かべている桜門。
 それは文月を安心させてくれて、心を穏やかにさせてくれるものだったけれど、あまりに綺麗すぎて、作られたものではないか。そんな風に思うことが多くなっていた。
 だから、文月の視線も関係なく自分の感情のままに笑う桜門を見て、少し安心さえしてしまう。

 けれど、その恍惚とも言える笑いは長くは続かなかった。
 桜門は、その声を止めた後、ゆっくりと両手を自分の目の前にもってくる。笑みはいつの間にか消えて、彼は無表情になっている。
 手の裏表を見て、自分の全身を確認をする。
 彼が何をしているのかわからず、文月は思わず桜門に声を掛けようとした。


 「文月」
 「え、は、………はい」


 その前に桜門から声を掛けられてしまい、文月は戸惑いながらも返事をする。
 ただ点呼を取るような無機質な名前の呼ばれ方。
 彼の心はここにはないのだとわかる。


 「俺の声は聞こえているんだな。………見えるんだな?」
 「はい………?」


 当たり前の事を聞かれ、文月は首を傾げながら返事をする。
 文月の視線の先には、宙に浮かぶいつもの桜門の姿がしっかりと見える。身に着けている宝石たちよりもキラキラと輝く銀髪に、繊細な刺繍が施された着物を身にまとった桜門。彼はいつもと変わらずに文月の前に居るのだ。