25話「奇跡と哄笑」



   ★★★


 文月と取引を交わした事で、桜門は白銀の元を訪れていた。
 体のいたるところからコードが出ており、口元にも呼吸器をつけられている。
 それなのに、彼は少しも楽そうにはなっておらず、呼吸は荒かった。

 けれど、桜門が彼の傍に姿を現すと、彼はすぐに気づき表情を穏やかにさせた。


 「………やっぱり、……あの子に……頼んだのは正解だった……な」
 「…………仕方がないから、身代わり依頼を受けてやる」
 「ありがたい。………けれど、彼女は重過ぎる対価を払ったわけじゃないと………いいけど」
 「あいつが望んだ事だ」


 桜門は冷え切った視線で、薄目で白銀を見つめる。
 自分がどんな感情なのかよくわからない。
 

 死にたくない。
 死にたい。


 自分の気持ちはぐちゃぐちゃになってしまった。
 そんな中でも希望だった彼女の姿。それが、いつも心の支えで、夢でもあった。


 「見守るだけじゃない、いつか一緒にまた過ごせるように」


 そのためにも、身代わり依頼をこなさなかればいけない。
 それなのに。

 彼女に全てなすりつけて、自分だけ助けようとしている。

 それはよくない。本末転倒だ。
 彼女につらい思いをさせることになる。
 それをわかってていて、桜門は彼女と取引を交わした。

 スコースコーッと荒い呼吸を繰り返しながらも、白銀は少しだけ声が強くなる。