真っ暗な闇の奥にドンッと構えて立つ大きな門に向けて、文月はそう言葉を投げ掛けていた。
「どうして………私の代わりに祖母が死ななきゃいけなかったのですか!?」
最後の言葉は、大きなものになっていた。
桜門に話をかけるなんて、誰かが見ていたら不審に思っていただろう。だが、そこには誰もいない。一人を除いては誰もいなかった。
何の反応もない。
風の音だけの城門前。
文月は自分の行いを見つめ直し、バカな事をしているな、と思いため息をついた。
何故、こんな事をしているのか。何も起こるはずもないのに、起こると思ってしまったのか。自分でも不思議だった。
手に持っていた和紙の手紙は、文月が手に持ち歩いていたため、少しくしゃくしゃになってしまっていた。それを丁寧に広げた文月は、祖母の文字を見つめた。
「みき子おばあちゃん………」
その声はここに来てから1番小さな声だったはずだ。
けれど、その言葉が景色を変えた。
「え…………」
文月は驚きのあまり、言葉を失った。
先程まで真っ暗な桜門と石垣だけだった城門前。そのはずだった。
しかし、今は満月の光りを浴びて神秘的に咲き、舞い散る桜並木が目の前にあったのだ。
初めは驚きと戸惑いがあったが、あまりの綺麗で幻想的な風景に、文月は見入ってしまった。夜桜は見たことがあったけれど、今までこんなにも心が揺れ、動揺してしまうほどの美しさを感じた事はなかった。
夜であるのに、ピンク色ははっきりと見えるが、光が強く当たる部分は何故か青色にも見える。
この世のものではないようだ。
そう思った時だった。
「おまえが新しい依頼主か?」
耳元で低い声と気配を感じた。
すぐ傍まで誰かが近づいて居た事に全く気づけなかった文月は、その声に驚きすぐに後ろを振り向いた。
そこには、一人の男性が薄い笑みを浮かべ、腕を組ながら立っていた。
白い肌に白い着物、透明にも見える銀髪。そこにある黒く光る瞳が特徴的な男だ。
それが、桜門との出会いだった。