といっても、ツボミは初代ドールのため欠陥も多い。
日々のメンテナンスを行わないと、動けなくなったり不具合が生じるのだ。
細かい作業は白銀しか出来ないもので、他のスタッフに任せてしまうと、どこかおかしくなってしまう。そのため、1日のスタートはツボミのメンテナンスが日課になっていた。
「白銀。次のドールの準備はどうですか?」
「ユリは……もう少しかな。でもやっと試験をするまでは見えてきたかな」
「そうですか。白銀の努力が実るのですね」
いつものようにメンテナンスをしていると、ツボミはそう話しをした。
始めは「マスター」と呼んでいたツボミだったが、白銀がそれはやめるようにお願いをした。白銀にとってツボミは、ロボット作りの相棒であり、日々の暮らしを共に過ごす家族であり、ずっと一緒に居たいと思う異性だった。
だから、名前で呼ばせるようにした。ツボミは、自分にとって主である白銀の事を呼び捨てにするのは抵抗があったようだ。いろいろと学習をしていく中で、人間世界でそれが普通ではない事を知ったんだろう。
けれど、白銀が「ツボミにそう呼んでもらった方が俺はうれしいんだけどな」と言うと、ツボミは渋々「わかりました」と了承してくれたのだ。
そんな些細な事だが、ツボミに少しずつ人間らしさを感じるようになっていた。
「どうした?何か気になることでもあるか?なんでも言ってくれ。ツボミは俺が見落としてしまう事もよく気づいてくれるからな」
「特に気になる部分はありません」
メンテナンスをする時は、どうしてもツボミの服を取らなければいけない。
背中の部分から、コードをつなげてPCで操作する事になるが、今になって背中につけてよかったなと思うようになった。人形であっても、ツボミを裸にして正面から見てしまうのは恥ずかしいと感じてしまうからだ。
そんな事で背中越しでの作業のため彼女の表情はわからない。けれど、声音がいつもより低い気がしたのだ。システム上、そんな事はないはずだが、きっとAIであるツボミは、独自でそれを学んだのだろう。ネットである論文や、日々人間達と接する事で、人間の細かな動きな声、表情な言葉、礼儀を学んでいるのだ。その成長は子どもと同じぐらいか、それ以上のはずだ。
そのため、ツボミは何かを気にしているのだと白銀は感じていた。