23話「蕾」




 桜門は何故ここまで頑なにこの依頼の拒むのか。
 
 確かに身代わりの相手は人間ではなく人形だ。失敗する可能性もあるだろう。けれど、やってみる価値はあると思う。
 それに白銀も身代わりが100パーセント上手くいくとは思ってはいないはずだ。この桜門の身代わりの力が最後の砦なのだろう。藁にも運にも縋る思いで桜門の元を訪れていたはずだ。
 文月の祖母や黒夜の依頼を受けた桜門ならば、きっと受け入れるだろう。そう思っていた。

 だが、何かが桜門を心を止めている。
 文月はそれが気がかりだった。


 「『今回だけは失敗する事は出来ない』ってどういう事ですか?」
 「…………」


 その言葉は、桜並木で桜門が小さくこぼした言葉だった。それが桜門にはどうも気になるのだ。今回だけ、という表現が。


 「当たり前だろう。人形相手に身代わりの力が使えるはずない」
 「物にも命が宿るっていうじゃない」
 「どうしてそんなに白銀の依頼を叶えたい?俺の助手だろう。俺が認めた依頼だけをこなせばいいだろう」
 「白銀さんの願いを叶えたいんです。大切なものを命がけで守りたいって気持ち。少しだけ理解出来たような気がするから」
 「なるほどな。じゃあ、文月は俺の事が好きか?」
 「え?」
 「俺の事を少しでも好きで大切だと思うなら、俺と取引しないか?俺の依頼を受けるなら、白銀の依頼を受けてやろう」