目を開けると、そこは豪華な個人病室に2人は居た。ベットの上に下ろされた文月は苦しむ白銀を横にした後にすぐにナースコールを押した。すると、「白銀さん!?戻ったんですか?今向かいますっ!」と焦った口調とバタバタとした雰囲気が伝わる返事が帰ってきた。

 「………ふ、ふみ……つきさん………」
 「白銀さん?大丈夫ですか?今、お医者さんを呼んでもらうので、安心してくださいね」
 「……安心なんて出来ない。桜門が身代わりを了承してくれるまでわな……」

 胸が苦しいのか、時々胸を押さえ苦痛に耐えながら、ゆっくりと言葉を残す。


 「……桜門さんが身代わりの力を使わないのは、何か理由があるのだと思います」
 「…………だ、ろうな。俺も身代わり依頼をこっそり見たが、簡単に叶えている印象がある……もち、ろん……断ることもあったがな………でも、それでは俺は安心して死ねない……」
 「白銀さん………」


 白銀はよろよろと手を伸ばす。
 先ほど、桜門に向けて手を向けた時と同じように。


 「お願いだ……桜門の事を説得してくれないか……」
 「………身代わりの説得…………」
 「あぁ。おまえさんも、身代わりをしてもらったか、されたんだろう。けど……1年見てきたが、桜門が傍に人間を置いているのは見たことがない。…………文月さんは、桜門に気に入られているのだろう………」
 「……………」
 「お願いします。どうか、俺のドールを助けてください」


 大きくて、骨が浮き出て痩せ細った手が、文月の手に触れられる。
 そして、苦しさからか青白かった顔は更に顔色が悪くなってしまい、黒ささえ感じられた。そんな白銀な瞳から、大粒の涙が絶え間なく流れていた。

 その涙の粒は、とても澄んでみずみずしく。当たり前の事だが、生きている事を感じさせられた。


 文月は、白銀の手を振り払う事など出来るはずもなかった。