「タイムリミットだ。……安心しろ。俺だってそこまで非道ではない。送ってやる」


 そういうと、白銀と傍にいる文月の周りに、あの桜吹雪が起こる。
 転移する時の桜吹雪だとすぐわかり、文月はホッとする。きっと、桜門は病院に彼を送るつもりなのだろう。
 けれど、当の本人は安心するどころか、目を見開いて桜門へ震える腕を伸ばした。


 「止めてくれっ!……………まだ俺は………おまえに話したいことが………」
 「………白銀さん……」
 「………」
 「無視するんじゃねぇーよ……俺は、おまえだけ……桜門、てめーだけが唯一の俺を救える可能性が…………」
 「…………勝手に頼るな。迷惑だ」


 桜門の冷たい返事に、白銀の顔は止まった。
 そして、文月も呼吸を止めた。
 大量の桜の花びらが文月の視界を奪う。もう桜門の姿は見えない。

 が、一瞬だけ桜吹雪の切れ目から、彼の表情が伺えた。
 その時の桜門は、どうしようもなく悔しそうに口をクッと縛り目を瞑っていた。


 文月は、白銀の体をギュッと抱きしめて、彼が少しでも苦しまないようにと願った。