「か、香りだけで、甘くないですよ………」
 「俺はおまえを助けてやりたいと思う」
 「……」
 「………俺は確かに甘いのかもしれない。けど、それは仕方がない事だ。もう少しで……」


 どうして、愛おしそうに目を細めて話すのに、口調は泣きそうなのか。
 彼の言葉の続きが早く聞きたい。
 桜門は今どんな事を悩み、考えているのかを。


 しかし、その話は途中で終わりを迎えてしまう。


 「桜門!恋人が出来たのか!?」
 「………っっ………」
 「………話の邪魔が入った」


 突然、男性の大きな声が、桜門のいう所の「領域」に響き渡ったのだ。
 桜門に首筋などを触られていた事や、その男の言葉に、文月は思わず固まってしまった。
 桜門は嫌そうな表情でその声の主である男性の方を向き、ゆっくりと立ち上がった。
 桜門に触れられた所が妙に熱を持っており、文月はそっと同じ場所に目を置いた。
 そこでわかった。熱が持っているのではなく、冷たくなった場所が元の体温に戻ろうとしているのだと。