文月は苦笑いをしながら、そういうと視線を落とした。見慣れた桜の花びらが敷き詰められた地面。それを見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
 正直話すべきか迷った。けれど、ここまで来たら誤魔化す事など出来ないだろう。


 「毎月実家にお金を振り込んでるんですけど、先日お金が足りないって言われて。それを無視してたら、怒られてしまって。今月は少し苦しかったからと説明したんですけど。ダメでした……。明日から、節約しなきゃですね。桜門さんにもあんまり差し入れ出来ないかもしれないです。ごめんなさい」


 最後は早口で、誤魔化すように調子の良い口調になってしまった。ゆっくりと顔を上げるが、彼を直視することも出来なかった。


 「お金がないのか?」
 「……苦しいってだけで全くないわけではないですよ。大丈夫です」
 「そうか。……おまえは苦しんでいるな。顔が病気の時のように悲しそうだ」


 桜門は、励ますように文月の笑みを向ける。そして、泣いた子どもをあやすように背中をゆっくりと擦ってくれる。
 文月はまだ泣いていないというのに。

 「桜門さんは私に甘いですよね」
 「お前は甘いからな」
 「……それ指の話しですか?」
 「それもそうだが、おまえは甘い香りがする。髪からも……。」
 「………ん……」
 「服からも肌からも……」


 言葉と指の動きが重なる。
 髪をすいた細い指は、服に触れられ、そして首筋に触れられる。
 ぞわりとした感覚が体を走る。けれど、それは不快なものではなく、体の奥がしびれるような、きゅんとする不思議な感覚だった。
 それが嫌ではなかった。
 むしろ、喜んでいるのがわかり、文月は自分の気持ちに困惑してしまう。
 桜門に触れられる事を望んでいる。

 それがわかると、全身の体温が1度は上がったように感じられる。
 熱くて仕方がない。