20話「桜酒」



 「これがいちご大福というものか。果実をまるまる1つ使うとは面白い発想だな」
 「………」
 「いちごとあんこも合ってるな。これも好きな味だ」
 「………」
 「文月、話を聞いているのか?」
 「………」
 「あー、ここにおいしそうな指があるな。食べてみるか」
 「………なっ!?え、何で指食べてるんですかっ!?」


 指先にぬるりと冷たい感触を感じ、文月は咄嗟に自分の右腕を引っ込めた。
 彼に食べさせていたいちご大福がすでに手にはなくなっており、何故か桜門が右の人差し指を口に入れていたのだ。文月は真っ赤になりながら、彼を睨み付ける。が、彼も同じように不満そうな視線を文月に向けていた。
 

 「おまえが心ここにあらずだからだ」
 「そ、それは。ごめんなさい……」


 自分が考え事をしてしまっていたのは確かなので、それについては、文月も謝罪をした。だからと言って、指を舐めてもいいわけではないとは思うが。


 「何を考えていた?電話があってから、様子がおかしいが」
 「………」
 「おまえの母親からで電話だろう?」
 「やっぱり桜門さんは何でもわかってしまうんですね」