「なまえ、」
「あ」
「名前なんてーの、最期くらい聞かせてくれたっていーだろ」
「いいけど今聞いたって3分で意味なくなるぞ」
「だからこそだろ、わかってねーな」
「峰」
それ苗字、名前? って聞いたら名前、って返ってきた。
峰、峰か。そんな名前あるんだなぁ、ってのんびりと思ってから、カシャ、とシャッターを切る。
向こうのガラスに映ったおれと峰の透明の影がなんだか愛おしく見えた。自分が自分らしくあろうとすると笑われて変だよおかしいって怒られて、この声も顔も形も決して決められたものなんてものはなくて、正解なんてないはずなのに。
どこかでずっと遠慮していた自分らしさ。それを見つけられてしまったことになんだか途轍もなく泣けてしまった。泣かないけどね、心死んでるからさって鼻で笑ってもう、残すとこ1分20秒。
ゴオ、とどこからともなく届いた音、電車の揺れ、自分って世界の終わりを、なんとなく隣の体温と眺めてみる。
「おれ、侑吏」
「ふうん」
「ふうんてなんだよ」
「男でも女でもいける名前」
「うるっせ」



