「ただいま。」
いつものように家の玄関を開けたが、さすがに夜遅い時間だったため賢斗は飛びついてこなかった。
代わりに母さんがリビングからパタパタとスリッパを鳴らして玄関にやってきた。
「遅かったじゃない。連絡したのに全然音沙汰ないから…」
「ごめん。ちょっと居残りしてた。」
遅くなった理由を簡単に述べてリビングに向かうと、父さんが既に帰ってきていた。
「遅かったな。彼女とデートか?」
ニヤニヤ聞いてくるあたり随分な確信犯だと思う。
「居残り。」
相手にするのが面倒くさくて母さんに言った同じ言葉を言い放ち、手を洗いに行く。
リビングに戻れば母さんがそそくさと準備してくれたであろうテーブルには今日の夕飯が乗ってあり、俺は席に着いて食べ始めた。
「何か悪さでもしたの?」
いつの間にか目の前に座っていた母さんにそう聞かれた。
しかし、口には食べ物が入っていたため代わりに「違う」と首を横に振った。
「何も。俺は巻き込まれただけ。」
すぐに飲み込んで今日起こった出来事を簡潔に答える。
「女の子か?」
「…そうだけど。」
本当に母さんも父さんもこういうところは似ていると思う。
こういう何かしらの色恋沙汰を気にしてくるのだ。そして、ちょっかいを出したがる。
「なになに?好きな子なの?」
「は?全然」
「名前は?」
「言ってどうすんだよ。」
名前なんて言ってもどうしようもない上に、まず、なぜ自分の子供の恋愛事情なんか気になるのだろうか。
いや、これは恋愛どうこうの話ではないが…。
「やーん、気になるわ〜!」
「月斗もついにかあ」
と、二人は勝手に話を進める。
違うと精一杯言ってももう伝わらないのは十分に知っているから早く風呂に入ろうと決めた俺はご飯をかき込んだ。
「ごちそうさま。」
「「はやっ」」
勝手に話が盛り上がっているのを制止するように食事の終了を告げた。
そして二人して声を揃えているのを無視し、使った食器を食洗機に投げ込んで早々と風呂に向かって行った。
