「寒。」
やはり夜は冷え込むから、明日からはブレザーを持ってこようと決めた。
「ひゃー寒い。明日からタイツ履こうかなぁ。」
女子はスカートで足が見えているからとても寒そうだ。
堀田の身体が寒さで縮こまり、いつも以上に小さく思える。
学校からだんだんと距離が離れていき、明るさが消えていく道。
堀田は大丈夫だろうかと様子を窺うが、いつもの調子そうで安心した。
「月、見えないね。」
考え事をしていた時に急に話しかけられ、反応が遅れてしまったが普段通りを装う。
「そうだな。」
『今夜は満月なんだって』という堀田が書いたメモを思い出す。
場所が悪いのか、空を見上げても月どころか星も見えない。
「………満月、見たいな。」
静かに、切望しているような言い方だった。
その声を聞いて俺は思わず、堀田の手をとって走り出した。
「ちょっ、月斗!?」
「多分ここからじゃ見えないんだよ!走るぞ!」
満月が見たい、たったそれだけ。
たった、それだけ。
でも思わず走った。
だって、
堀田が願ってる。
俺の名前が入った、光に溢れた満月を。
