ガラッ

美術室の扉が開き、春日が目の前に現れる。



「月斗?」



部活が無い今日、なぜ俺がいるのかを疑問に思っているような言い方だった。



「あー、すまん。春日に用があったんだけど…。」


「そっか。でも、今ちょっと立て込んでて…。明日でもいいかい?」



「あ、ああ。」



ガタン


「春くん、私先に帰るね。」

「え、千星…。」



突然、席を立ち上がる大きな音がしたがその音の主はもちろん堀田だった。


この場に居たくないという雰囲気を醸し出しながら、春日の声にも振り返らずにそそくさと美術室を後にした。



「……はぁ。」



短い沈黙が続いた後、小さくため息をつく春日。



「…大丈夫か?」



「僕は大丈夫だよ。千星の方がちょっとゴタゴタしていてね…。」



「そのことなんだけど…あいつなんかあったのか?」



「あー…」

そう言っていいにくそうな顔をする春日。





「ごめん、僕からは何も言えないや。」

「…ぁ、そっか急に悪かったな。」




正直、春日なら教えてくれると思っていたから予想外の返事に少し動揺してしまった。



「ううん。こっちもびっくりさせたよね、いつも元気な千星が泣いたりするんだもん。」



「いや、そんなことはない。けっこう泣き虫なところもあるし。」



「ふふ、千星のことよく見てくれてるんだね。」
 



「いや…あいつ目立つし。」  



「そうだね。」


そこで会話が終わり、お互いが口を開かないままさっきよりも長い沈黙が続く。






「月斗」



と、春日がハッキリ俺の名前を呼び、少し身構えた。



「僕は何も言えないけれど、きっと千星は月斗になら話してくれると思う。」



そう言い、話を続けていく春日。
 

「今は、びっくりしているだけだと思う。みんなに見せたくない顔を月斗には見せてしまって。」


「…俺、迷惑かな。」


「そんなことないよ。もう僕たち既に5年の付き合いだよ?」


5年…まあまあ長いだろう。
中学一年生からほぼ毎日顔をつきあわせ、他愛もない会話を繰り返して、体育祭や文化祭、いくつものイベントをこなしてきた。


でも、








「5年も一緒に過ごしても、あいつの気持ちはわからない」




そう弱気に言い放ったのは久しぶりかもしれない。




…………人がこんなにもわからない。





「そうだね。千星はとても難しい子だ。気分屋で、素直で、繊細で、不器用。保育園の頃から一緒だからもうわからないことはないけれど…千星を知っていけば知っていくほど、」




一瞬の間を置き、春日はゆっくり、静かに、言葉を並べる。




「とても愛おしくなって、守りたくなるんだ。」




俺は正直な春日の言葉に驚いたが、春日らしい真っ直ぐな言葉だと思った。






「…いいな、そういうの。」



少し、フッと笑って俺はそう呟いた。




「そうかな。」





はにかむ春日に夕日が当たり、春日の色素の薄い目がいつも以上に輝いていた。















二人が少し、羨ましいなんて思ったのは秘密だ。