「え……」
信じられない。そんなことを思っているような態度じゃなかったのに。
「受理するもしないも宮本さんの自由です」
市川さんはもう見慣れた困ったような笑顔を向けるから、私は顔を真っ赤にする。
「あの……ほ、本日付で受理いたします……」
消え入りそうな小さな声は市川さんに確実に聞こえたようで、頬をほんのり赤くした貴重な顔が見られた。
「どうしましょう……」
私は焦り始める。
「どうしました?」
「あの……これからは市川さんに会わないときでも市川さんのことを考えてミスを連発してしまいそうです……」
「それは僕も困ります」
市川さんは私の耳元に顔を近づけた。
「そんな可愛い宮本さんが僕以外の男にも見られてしまうなんて嫉妬します」
耳まで熱を持ち始めるから、持っていた申請書で顔を隠すと、額に市川さんの唇が軽く触れた。
そんなシーンがマンガであったのを思い出す。
丹羽さんをますます恨む。市川さんにあのマンガを教えてしまったから、私は三次元の王子にまで夢中になってしまう。
「あの、市川さん……」
「何ですか?」
「市川さんの笑顔をあまり他の女性には見せたくないのですが……」
申請書の紙を目元まで下げて上目遣いに市川さんを見ると、珍しく顔を赤くして市川さんは微笑んだ。
「はい。では宮本さんの前でだけは遠慮なく笑いますね」
そう言って再び私の額にキスをした。
これからは冷徹王子の笑顔を独占できるなんて、贅沢すぎてマンガの王子を忘れてしまいそうじゃないか。
END



