申請王子様





帰社したのは20時を過ぎていた。直帰でもよかったのだけれど、社用パソコンを持ち歩いていたので一応会社に置いておきたかった。

誰もいないと思ったフロアに一部電気がついているのが曇りガラスの外から分かった。誰かまだ残業しているのかとドアを開けると私のデスクの横に市川さんが座っている。

「え! 市川さん?」

「ああ、おかえりなさい」

私を見た市川さんは微笑んだけれど、ハッとしてすぐ無表情になった。

「どうしてここに居るんですか? もう定時はとっくに過ぎてますよ?」

総務部の人が締め日以外で残業するなんて珍しい。

「宮本さんを待っていました」

「え?」

「会社に戻ってくる予定だと聞いたもので」

「でも……どうして?」

市川さんは立ち上がると私の前に立った。

「宮本さんが最近総務課に顔を出されないので心配になりまして」

「え……あの……そんなことないですよ。今日も書類出しましたし」

「では言い方を変えます。僕を避けているようなのが気になりまして」

「………」

「宮本さんに避けられると結構堪えます……」

やっぱり市川さんを避ける私に怒っているのだろうか。

「あの、私が何か市川さんを怒らせたのならすみません……」

「僕は怒っていないのにどうして謝るのですか? 謝りたいのは僕の方です。宮本さんに失礼なことを言ったのではと不安で……」

「そんなことはないです……」

「最後に怒っていらしたので」

「え?」

「僕にこれ以上笑顔が増えると困ると言いました。宮本さんは僕が笑うと不快でしょうか?」