申請王子様


「そうなんですか?」

あれ? 市川さんのメモの感じだと催促されていると思ったけれど、まだ大丈夫だったのかな?

「市川さんに会いたくなかった?」

デスクに座った丹羽さんが面白そうな顔をして笑う。

「もう! 丹羽さんのせいでもあるんですよ! マンガのこと課長に教えましたね?」

「ごめんね。でも意外な課長の一面が見れたでしょ? 雰囲気を変えた方が他の部署の人も好感持ってもらえるって言ったの」

「そうですけど……」

気まずくなってしまったのは丹羽さんのせいだ。私は今までのように市川さんの顔だけ見ていればよかったのに。

「では処理をお願いします。失礼します……」

これ以上丹羽さんに詮索されないようにフロアを後にした。

他の部署の人が市川さんの魅力に気づいてしまったらどうしてくれるのだ。市川さんがモテるのは癪に障るのに。





移動中の電車の中で何度も読んだマンガをまた開く。
『続きから読む』をタップすると城内に画面が変わる。主人公である私の存在が気に入らない継母とその使用人たちの前で王子が私を庇うシーンから始まる。

ああそういえばこれって、この間と似てるかも。

私に雑用を押し付けないように先輩社員に怒ってくれた市川さんのようだ。別に雑用を押し付けられているわけではないのだけど、今思うと市川さんは私を心配してくれたのだろう。

無表情だけど本当は優しい。王子様とは程遠いけれど私を気にかけてくれる。
なんだかもう、マンガの王子よりも市川王子のことばっかり考えちゃう。

もっと話してみたい。市川さんの好きなものを知りたい。柔らかい雰囲気の市川さんを見てみたいけど、本当は私だけに笑顔を見せてほしい。