申請王子様


市川さんとはデスクが離れているし、きっと今はお昼でいないはず。そう思ったのに、数メートル先に市川さんが座っているのが見えて息を呑む。
わざわざ時間を見計らったのに失敗した。市川さんも私に気付いたのか目が合ってしまった。その瞬間私はさっと目を逸らす。

市川さんを意識するとうまく息ができない。胸がザワザワして苦しい。

領収書を経理課の社員に渡すと、市川さんの方を見ないように急いでフロアを出た。





溜めに溜めた書類を出さないと本当に怒られるという時、帰社した私のデスクの上にメモ用紙が置かれていた。

『宮本さんへ。締め日が近いので諸々の書類を提出してください。総務課 市川』

うわーっと叫びだしたくなる。これはきっと市川さんは怒っている。だって今までこんな風に催促されたことなんてなかったんだから。

総務課を困らせてはいけないと観念して、溜めた書類の束を持って総務部のフロアに行った。

曇りガラスの奥に市川さんがいると思うと中々ドアを開けられない。すると向こう側からドアが開いた。顔を見せたのは黒井さんだった。

「宮本さん、何してるんですか? 曇りガラスの向こうから見ると結構不審ですよ」

可愛らしい容姿の黒井さんは手招きするけれど、私は市川さんに会いたくなくて足が動かない。

「あの……市川課長はいますよね?」

「課長は今銀行に行ってるのでいませんよ」

「そうなんですね」

ほっとしてフロアの中に入った。

「これ……溜めてすみませんでした」

黒井さんに書類の束を恐る恐る差し出した。

「ありがとうございます。まだ締め日には間に合うので大丈夫ですよ」