「そのマンガの王子は笑顔の方が多いんです……」
私の言葉に市川さんは更に困った顔をする。
「いつも主人公に笑いかけて、見守って、そばに居る……」
「僕はあんまり感情を出すのが苦手で……」
「それはしょせん二次元ですから。市川さんはだめです」
「………」
私がはっきり言いきったことに市川さんは目を見開いた。
エレベーターが私の降りたい階で止まった。ドアが開くと慌てて飛び出す。
「宮本さん、あのっ……」
「これ以上市川さんに笑顔が増えると困ります!」
市川さんを中に残して閉まっていくドアに向かって叫んだ。視界から市川さんが消えて思わず壁に寄り掛かる。
しまった……とんだ失言の数々……。どうしよう、絶対市川さんを怒らせた……。
イメージを変えようとしている市川さんを否定したようなものだ。笑顔になると困るだなんて失礼すぎて合わす顔がない。
本当はそんなことを言いたかったんじゃないのに。
◇◇◇◇◇
市川さんと顔を合わせるのが気まずくて総務課に顔を出せない。
提出しなければいけない書類が溜まってきた。このまま締め日ギリギリになると総務課を困らせてしまうとは分かっていても提出できない。
取り敢えず経理課には先に領収書出そうかな。
市川さんがお昼休憩に行っているだろう時間を見計らって総務部のフロアに来た。
経理課と総務課は同じフロアにある。繋がっているけれど入り口は二つあって、念のためいつもとは違うドアから経理課に挨拶をして入った。



