狭いエレベーターの中で二人きりになると息苦しい。静かだから心臓の音が市川さんに聞こえてしまうのではと不安になる。
「王子様になるのは、まだ僕には難しそうです……」
「え?」
「丹羽さんに勉強してくださいって、とあるマンガを勧められました。そのマンガに出てくる王子様になったらいいと」
「そう……なんですね……」
「僕は冷たい印象なのだそうです。今までは気にしたことはありませんでしたが、今は柔らかい雰囲気になりたいなと思っています……」
市川さんの声は後半になるにつれ消え入りそうなほど小さくなる。
「それってどんなマンガですか?」
市川さんはスマートフォンを出すと私が利用しているマンガアプリの画面を出した。
「………」
「この王子を見習ってと言われたのですが……」
マンガアプリで配信されている私の好きなマンガの画面を向ける。戸惑うような表情の主人公と推しの王子様が微笑んでいる。
余計なことを……と丹羽さんに小さな怒りが湧いてしまう。あのマンガが好きなんて言わなければよかった。
「でも僕にはこのキャラクターのような王子様になるのは難しくて……」
「あー……まあファンタジーで、マンガですから……」
「宮本さんもこのマンガを読んでいるんですよね?」
「……はい」
「そうですか……」
困ったような顔をしている。突然王子様キャラを目指せなんて言われても戸惑うに決まっている。
「市川さんはその王子とは違います……」
「そうですよね……」



