「行かなきゃ、ね」
存在もしない誰かに語り掛ける様に、聖は一つ言葉を口から洩らして部屋を出た。部屋の外に広がる景色も、とてつもなく寂しいものだった。
コンクリートで出来た先が見えない程の長い廊下が続いていて、廊下の壁には一定の間隔でランプが置かれている。そこには人の気配はなく、進む度にただ自分の足音だけが木霊した。
換気扇からは渇いた音だけが響き、静寂に包まれたその場所を一匹の蛾が浮遊している。
「……君も、可哀想だね」
歩く足を止めて、パタパタと宙を舞う蛾に言う。物言わぬ蛾は、廊下に灯された僅かなランプの周りに縋りついていた。
もう二度と、外の世界には出られない事を悟っているかの様にーー。
