広さ二十畳程の、部屋の一角に置いてある全身を見る事が出来る鏡ーーそれに映る自分の姿はシンプルな黒のワンピース姿。ワンピースの胸元に付いているワインレッド色の細いリボンを手早く結び、跳ねてクシャクシャになった髪をテーブルに置いてあった櫛で手入れした。


 起床して十五分、身なりの整った少女の姿をポツリと佇む鏡が捉える。パッチリと開いた紅色の瞳は時々長い睫毛を伏せ、春を連想させる様な形の良い桜色の唇は潤いを帯びている。寝室の窓から吹き抜ける初春の風が、少女の腰まで伸びた艶やかな黒髪を撫で上げた。


 少女、聖は服の中に入れていた携帯を取り出して時刻を確認する。液晶画面に記される時は、九時半を過ぎていた。またまた深い溜め息を一つ吐き出し、先程まで自分が寝ていたベッドを一目して部屋の扉に向かって歩く。


 木製のレトロな扉の前に立ち、ドアノブに手を掛けた直後ーーもう一度部屋を見渡す。寂しい初春の風がカーテンをユラユラと揺らす。


 生暖かく心地いい春の風。


 限られた家具しかない殺風景な部屋。


 さっきまで恋人と肌を重ね、一緒に甘く幸せな時間を過ごしていた場所は静寂だけが流れ、少しだけチクリと胸が痛んだ。