夜明け前の鬼ごっこ

「ひっ……た、助けてくれ……」

小さく悲鳴を上げた男性に、俺は男性の耳元でこう囁く。

「自分の子どもに暴力を振るって……自殺にまで追い込んでおいて、自分だけ助かろうなんて……させないよ?」

俺はそっと大鎌を下ろして、躊躇いもなく男性に大鎌を振り下ろした。男性は悲鳴を上げると、地面に崩れ落ちた。

「……ははっ」

俺の口からは、乾いた笑いが漏れる。どうして、こんなに気分が良いんだろう。

――お前なんて生まなきゃ良かった

――あんたは、出来損ないなんだから

――目障りだ。消えろ

うるさい、うるさい、ウルサイ……暴力を振るうやつなんて……皆、俺が消してやる。

グルグルと色んな声や色んな記憶が駆け巡ってきて、俺は強く大鎌を握り締めた。

……もしかして……イジメや虐待などで暴力を受けていた……これが、あの死神の言ってたとある共通点?

「そこに隠れてる少年は、イジメをしたのかな……?で、その少年の隣にいる男性は妻に暴力を……?さぁ、隠れてないで出てきなよ。これは、隠れんぼじゃないの」

にっこりと笑いながら気配のする方に向かって話しかけると、走り去る音がする。

「……そう。これは、鬼ごっこ……だよ?」

俺は大鎌を構え直すと塀を飛び越えて、まずは妻に暴力を振るっていた男性を追いかけた。

「見つけた……」

小さく笑って、俺は鎌を振り下ろす。