ハツコイぽっちゃり物語


「ヒッ」

「ははっ、やっと顔見れた」


あまりにも整いすぎている顔に直視できず、胸元に顔を埋めると「あ〜また隠されちゃった」とおどけたように笑う。


やだ。顔見られた。
よりによって泣き顔を。


優しく包んでくれる先輩の腕の中はとてもあたたかい。すんと鼻で息を吸えばせっけんの柔らかな香りがして心地がいい。まるで洗いたてのタオルみたい。



「米倉さん」

「はい」

「顔上げてよ」

「う、できません」

「じゃあ、……“好き”って言ったら上げてくれる?」

「っ」


なにそれ。ずるい。ずるいじゃないですか!
そんなの顔上げちゃうじゃん。


その言葉は魔法みたいだった。だっていとも簡単に顔が上を向いてしまったから。バッチリと視線が捕らえられて、逸らしたいのに離せない。


優しいその笑顔はいつも見るそれだけれど、今は私だけの特別な笑顔……だと思っていいのかな。

そうだったら嬉しいな。