乾いた音が静かに響いた。
手が痛い。
見上げれば頬が赤く染まった恋ちゃんが俯いてる。
はじめて叩いた。人の顔。それも幼馴染の顔。
……でも、許せなかった。
「恋ちゃんがそんなこと言う人だとは思わなかった。先輩に“アイツ”なんて失礼だよ。それに、先輩を好きになるのに恋ちゃんの許可が必要なの? 俺がいるじゃんってなに? 私は……っ」
恋ちゃんの顔がぼやけていって見えたのは自分の涙だと気付く。
なんで泣いてるのか分からないけど、何となく分かってる自分がいる。
でもひとつ言えることは、痛いということ。
手も、心も、喉も、痛い。
数時間前の私はこんな痛みを感じるなんて1ミリも思ってなかっただろうに。
なんで、こうなっちゃったんだろ……。
「ごめん。…………千桜のこと、よろしくお願いします」
解放された手は力が抜けていく。
私の横を通り過ぎていった恋ちゃんは先輩にそう告げて教室を静かに出て行った。
静まりかえる教室に先輩とふたりきり。
俯いた顔を上げることができない。だって泣いてる顔なんて……。
「米倉さん」
私を覆う影に先輩が近くにいることを確認する。
顔を上げて、と言う先輩に首を振る。
こんな顔見せるなんてできない。
すると突然視界が真っ暗になった。
思わず顔を上げるとにこやかな先輩と目が合う。



