「恋はさぁ、恋するために生まれてきたもんだよね」
「……は?」
何言ってんの。
急に真面目な顔をして言う恵に俺は首を傾げる。
『恋をするために生まれてきた』?
……まあ、“恋”って名前だけど。
親も出会いの季節に産まれた俺に、出会いと幸せを感じられるよう付けたって言ってたし、兄ちゃんが愛斗って名前だから、『愛といったら“恋”』という感じでこの名前に決めたみたいだけど……。
男女関係なしに付けてくれた俺の名前。
「……まあ、そうなんじゃん? 現に恋してるし」
「……! はぁーっ、おま、ほんとっ……ほんとそーゆーとこよ。まじで」
「いや意味わからん」
俺の肩を叩きながら小声で「お前かっけぇな」なんて言ってる恵。
別に本当のことだし。こんなのどこがかっこいいんだか。好きな人に告白の『こ』の字も言い出せず、どんどん置いていかれてる俺は断然カッコ悪いんだけど。
空を見上げれば黒みがかかった雲が覆っていた。
雨が降りそうだなと思ったところでチャイムが鳴り、俺らは自分たちの教室へ戻った――。



