――ピロリン。
この緊張感の中、軽快な音が鳴った。
「晴のやつほんとーに帰りやがったっ」
そうブツクサ言って室内を出たのを2人で恐る恐る首を伸ばして確認し、辺りを見渡すと一気にその緊張から解き放たれる。
隣で先輩が大きく息を吐いた。
私も同じく息をつく。
「ごめんね、巻き込んじゃって」
「いえっ、大丈夫です…でもいいんですか?行っちゃいましたけど……」
「うん大丈夫。さっき家に居るってLINEしたし」
スマホを片手に私に見せる先輩はなんだか楽しそうに笑っていた。
じゃあさっきの着信音は先輩だったのかと納得する。あのタイミングでよく送れたなと感心もするけれど、確かに先輩は片手で何かやっていたもんね。なるほど、LINE送ってたんだ……。
ところで、未だに解放されていない私の手首。
先輩は気付いているのかな。
「あ、あの、葵生先輩」
「ん?」
「その、……手、なんですけど」
そう言って先輩の視線を誘導させると掴まれていた感覚がなくなった。
解放された手首にほんの少し温かみが名残る。
「もしかして俺ずっと掴んでた?!」
「つ、掴んでました」
「ほんとごめん!大丈夫だった?多分緊張してて強く握ってたと思うから」
痕付いてない?と心配してくれる先輩に“大丈夫です”と頷く。
だめだ。まともに顔が見れない。
先に行く先輩の後を追うけれど未だにこの胸のドキドキが治まらなくてなかなか近くに寄れない。
このままずっと先輩の背中を追いかけていくの?――ふとそんなことを過ぎった。



