少し見上げた先に先輩の顔があった。
カウンターからほんの少し首を伸ばして何かを探っている先輩が口を開く。
「ごめんね巻き込んで。ちょっと暫く付き合って」
「あ、はいっ」
「大丈夫だった?急に引っ張っちゃってごめんね……あ、来た……」
亀のように伸ばしていた首を一気に引っ込めて同じくカウンターに身を潜める先輩だけど、あまりの近さに心臓が口から出ちゃいそうになる。
人差し指を口に当てる葵生先輩に頷いていると図書室のドアを開く音と同時に声がした。男の人だ。
「晴〜!」
足音が近づくにつれて緊張度が増していく。
近くには先輩がいてもうこの状況にまでくらくらしちゃってるし、心臓が痛い。
「どこにいるんだアイツ、ったく…」と頭上から聞こえて思わず肩がびっくりすると葵生先輩が口パクで「ごめんね」と言った。
小刻みに首を振ると意識が違う方に向かった。
自分の手元を辿ると先輩の手があることに今になって気づく。
せ、せせせ、先輩の、手が、私の……っ!
――ゴンッ。
「イッ――!」
声が漏れたその反動に慌てて空いている方の手で口元を隠す。
やばい。これはやってしまったかもしれない。
まだ足音はそんな遠くまでは行ってないはず。「ン?」と静まった室内に発された声にドクドクと心臓が嫌な音をたてる。
戻って来ないでお願いしますっ私もいっぱいいっぱいだからっお願いしますっ……――。



