翌日、家を出るといつものように恋ちゃんが待っていた。
昨日のことは何も無かったかのように普通におはようと挨拶をして「今日は数学だな」なんて話してくる。
私は昨日のことで勉強どころじゃなかったっていうのに。ずっと考えてたのに。
なんで恋ちゃんはそんなに普通なの。
「今日も千桜ん家、」
「来ないで」
気付いた時にはそう口が走っていた。
立ち止まった私にひと足先に進んでいた恋ちゃんが戻ってくるのが影でわかる。
「明日も来ないで。1人で勉強するから。だいたい昨日のこと忘れてるのは恋ちゃんじゃん。私はずっと忘れられてないのに。なんで恋ちゃんが普通でいられるの……?」
「千桜……」
顔を見ないまま恋ちゃんの横をすり抜けて先に進むけど、胸が痛い。
なんか悔しい。悲しい。恋ちゃんが悪いんだけどこんな風に言うつもりなかった。
胸の奥が痛い。
ぐっと歯を食いしばると視界の端に恋ちゃんの足元が見えた。
いつの間に隣に……。
あんなこと言っちゃったのに傍にいてくれるんだ。
思い返せばいつもそう。
私がどんな感情でいても隣にいてくれる。
いつだって傍に……。



