「先輩はいいお兄さんですね」
「んーそうかな?そうだといいけどね」
「そうですよ。私が妹だったら感謝してます」
そう言い終えた瞬間、ぶわっと顔が熱くなる。
いまさら言葉を取り消すなんてできない。
でも、『妹』と言った自分の声が脳内に鳴り響くから取り消したい。
「ありがとう。米倉さん」
優しく笑う葵生先輩が私を見て言う。
なんか結構恥ずかしい。
こんな近くで先輩を見てることも。
先輩が私を見てることも。
「じゃ、またね。気をつけて。今日はお疲れさま」
「はい。お疲れさまでした」
ペコッと頭を下げて向かい側のホームへ向かうその背中を見ていると、エスカレーターに乗った先輩がこっちをみて手を振った。
だから私もそれに応える。
……だめだ。先輩の一つひとつの行動にいちいち胸の奥がキュンとする。
見えなくなるまで手を振るなんてカノジョでもなんでもないのにいいのだろうか。
こんな私が。夢みたいだ。
本当に今日はなんて素晴らしい日なんだろう。
いまとても幸せすぎる。
ホームへあがると向かい側のホームで電車を待っている先輩を見つけた。
音楽を聴きながら本を読んでる姿までかっこいい。
……好きだなぁ。
しばらくすると向かい側に電車が到着して、次の駅へと出発していった。
そして去っていく電車にこう告げる。
先輩、お疲れさまでした。
また金曜日の放課後よろしくお願いします――と。



