ハツコイぽっちゃり物語


「だ、大丈夫です!ほんとすみませんっありがとうございますっ」

「よかった〜。怪我する前に助けられて。てか俺の方こそごめんね」

「いや、これはほんと自分の不注意なだけで。大丈夫ですよ先輩が謝んないでください」

うわぁ、どんどん早口になる。
うぅ〜、もう早く溶けてなくなりたい……。

先輩困らせてどうすんのよ私!
ばかーー!


燃えてるような空色に思う。
私もそこに飛び込んで混ざりたいと。

本当に今は自分の姿を無くしたい。

からだが熱くて仕方ない。
あとから掴まれた手首にも熱が集中して実感せざるを得ない。

突如に思い出す香り。先輩の香り。

助けてー!と心の中で叫ぶ。
なぜ助けてなのか分からないけど、助けてほしい。

誰かにすがりたい。


「千桜ちゃん大丈夫?」

「晴菜ちゃん……」

「……もしかして先輩のこと好きだったりする?」

「え゛っ」

「おお、やっぱり好きだったか〜」

納得したように頷く彼女だけど
いやいやいや、なんで……。


「千桜ちゃん分かりやすいんだもん」

なんですと!?


「でも先輩は鈍いと見たね。大丈夫。気付いてはないよ」

そう言って下駄箱へ向かう後ろ姿をみて親指を立てる。


「私思うんだけどさ。葵生先輩、自分が“図書室の王子様”って自覚してないんじゃない?……ほらみて」


……うん、確かに。
自覚無いのかもしれない。

先輩はすれ違った女の子の落とした物を拾って届けた後、手を振る。

女の子はペコッと頭を下げたけど、その顔は赤く染っていたように思えた。