「……なに笑ってんだよ。気にすんな。別にあんなの痛くも痒くもなかったし?そんなことより、俺は千桜しか見てないよ。昔からずっと」
私の手を優しく握った恋ちゃんはコツンとおでこを合わせて言った。
「千桜が好き」
鼻と鼻がくっつきそうな距離で笑い合う。
この辺に誰も居ないからできることだろうけど、誰か来たらどうしようとかそんなこと今は思う隙もなかった。
ただ、瞬間を幸せに感じていたい。
「キスしてい?」
甘えたように言う彼は今まで見たことなくて、胸がドキドキした。
いいよ、と言う間もなくアッサリ奪われてしまい、彼は嬉しそうに口角を上げた。
手を引かれて教室の中へと導かれた私はすっぽり恋ちゃんの腕の中。
私の好きな彼の香りに笑みをこぼす。
しばらくの間、離れていた分の距離を縮めていくみたいに抱き合っていた。
そして、絶妙なタイミングでお腹が鳴った私に恋ちゃんは肩を震わせて笑う。
「わ、笑わないでよ」
「ちょーデカかったな」
「うっ……否定できない」
「はー……笑った。帰りますか」
手を引いて教室を出る。けど、急に立ち止まった彼が振り向いて私を見る。
「な、なに――!」
シトラスの香りがふわりと鼻孔をくすぐる。
触れた唇にほんのり温もりが残っている。
一瞬のキスに時が止まることもなく、私の顔を熱くさせ、胸が壊れてしまいそうなくらいうるさく響かせる。
「隙あり〜」
と喜ぶ声に“やられた”と素直に思った。



