「え、何。退いてくんないと帰れないし、千桜だって先輩待たせてるじゃん」
顔を引きつらせながら可笑しそうに、そして困ったように言った彼は、一度深く息を吐いた。
そんな彼を見つめる私は内心やっぱどこかで緊張しているみたいで、鼓動が耳にまで響いている。
「千桜、退かないと……キスするよ?」
恋ちゃんの瞳が少し揺れる。
それでもしっかり私を見つめていた。
だから、私もそんな彼を見つめ返す。
「いいよ」
「は!?」
「何言ったって退かないもん」
「え、は?……何言ってんの?え、言ってる意味わかって言ってんの?」
戸惑いを隠せない恋ちゃんは目がキョロキョロしていてかわいい。
「恋ちゃんのことが好きだよ」
恋ちゃんが好き。大好き。
やっと気付いたこの大切な気持ち。
ごめんね。気付くことができなくて。遅くなってごめんね。
……なんでだろう。
笑顔で言ったつもりなのに恋ちゃんが見えなくなってくる。
俯くとポタっと雫が落ちた。
「ご、ごめんね。……っ、恋ちゃんはずっと、私を守ってくれてたのに。ずっとそばに居てくれてたのに。恋ちゃんの気持ちに気付けなくて」
小さい頃からずっと隣にいてくれてたのは“幼馴染”だからじゃない。
恋ちゃんは私を好きだったから。
そんな彼を私はあの日……。
「頬っぺ、叩いてごめんねっ、私、本当はずっと恋ちゃんのこと、ずっと好きだった。でも、……っ恋ちゃんに好きな人が居るって知って諦めちゃったんだ」
手の甲で涙を拭い、恋ちゃんを見上げる。
少しぼやけた視界で見えた表情は、困ったように笑っていた。



