息を整えてドアに手をかける。その瞬間勝手に開いてドンとぶつかった。
「わっ」と小さく声を上げて後ろに少しよろめく。
痛めた鼻を押さえながら見上げると、彼がいた。
「千桜……」
恋ちゃんはさっき体育館で見た時と同じ冷たい表情でこちらを見ている。
明らかに不機嫌なことは間違いない。
「……鼻、大丈夫?」
その表情は変わらないけど、私を心配する恋ちゃんはいつもの恋ちゃんで、ほっとした。
でもほっとしてるだけじゃダメだ。
だけど、ドキンドキンと高鳴っていくばかりで言葉が出てこない。
早く、何か言わなきゃ……。
「先輩、待ってるんじゃないの?」
「……え?」
「いや、荷物置いたまま出てったじゃん。取りに戻ってきたんでしょ」
チラッと私の机がある方をみて、そう言う彼は私が今から先輩と一緒に帰るのだろうと思っているみたい。
違うよ。私は恋ちゃんに「好き」って伝えに来たんだよ。
そう言いたいのに全然声に出せない。
緊張なんてもうしてない。
なのになんで……。
は、早く言わないと。
「千桜俺もう帰るから。どいて」
「――ない」
「え?」
「どかない」
喉の奥から絞り出したような声は全く廊下にすら響くことはなかった。けど。
彼には届いたみたい。
“なんで?”というような顔を向けてくる恋ちゃんにもう一度「どかない」と今度は強く、聞こえるように、言った。



