それは答辞が読み終わったと思った頃。
《――ほんの少し私の思い出話をさせてください》
そう言った先輩は、やっぱり私を見ていて、そして柔らかく笑う。
隣にいるちーちゃんもそれに気付いたようで私を肘でつついてきた。
少しざわつく式場に先輩の澄んだ声が通って落ち着きを取り戻す。
一体なにを言うのだろうか。
ドキドキとなぜか緊張している私は先輩をまた見つめ直す。
《私……、俺はこの高校を選んで本当に良かったと思っています。多くの友人に恵まれ、沢山の思い出を作ることが出来たことはかげがえのない一生の宝物です。その中でも俺は生まれて初めて好きな女の子に出会いました》
当然のようにその場がドッとざわめく。
そして私は知っていたかのように鼓動が速くなった。
《生まれて初めての恋だった。……“好き”って感情は嬉しくて、楽しくて、時に煩くて、馬鹿みたいにムカついて。君には沢山の感情を教えてもらったよ》
視線が私ではない、誰かを見た。
そしてまた直ぐに私に戻る。
またふわりと笑うもんだから私もそう返す。
でも、なんか泣きそうだ。
《これからは別々の道を歩くけど、この恋を大切にするからね。大切なことを教えてくれたキミを俺はずっと忘れないよ。ありがとう》
ポロポロと頬を伝うそれはとても熱い。
もう限界すぎた。
なんで泣かせるのかな。
泣かないようにしてたのに。
笑顔で送るって決めてたのに。
私の方こそ、ありがとうがたくさんですよ。



