「先輩、ごめんなさい。でも、嬉しかったです」
先輩が私に恋してくれていたことを聞けて。
初恋だと言ってくれて。
「そして、ありがとうございました。私にたくさんの“はじめて”を教えてくれて」
先輩がいたから。先輩に会えてなかったら。
たくさんの思いも、大切なことにも、気付くことが出来なかった。
「葵生先輩は私の初恋です。初めて告白した人です。初めてキスした人で、初めてデートをして、……っ、本当に、先輩にはたくさんの初めてを教えてもらいました……っ」
次々と溢れてくる思いと涙。
もう顔がぐちゃぐちゃだ。
見せられたもんじゃないけど、ちゃんと先輩の顔を見て伝えたい。
今日で私たちは“先輩と後輩”に戻るんだから。
「ははっ。そんなの俺だってありがとうだよ。俺も初めての経験ばかりだ。恥ずかしいけど、嫉妬がこんなにも邪魔なものだなんて知らなかったよ」
目元を親指で払った先輩は、悔しそうに笑ってる。
初めて見た先輩の涙してる顔。
辛いのに笑顔を保とうとしている様子に胸が苦しくなるけど、私も同じように笑ってみせた。
「ごめん、やっぱ悔しいもんは悔しいね。は〜ぁ……泣く予定なんてこれっぽっちも無かったのに。だって最後は笑いたいじゃん」
眼鏡を外してあらわになった瞳はキラキラしていて、少し胸が高鳴る。
『笑いたい』
そう言った先輩は無理にでもと笑顔を作っている気がした。



