「ごめんね。こんなこと打ち明けたところで米倉さんの思いを変えようだなんて思ってない。ただ、これだけは伝えときたかったんだ」
先輩はもう一度「ごめんね」と言った。
その声は苦しそう。
当然だ。これは別れ話をしているのだから。
でも、先輩。謝らないで……。
「ごめんなさいを言うのは、私の方です先輩」
「なんで?」
「なんでって……。そんなの私のせいで先輩を困らせてたくさん迷惑かけて、こんな、こんな最低なヤツに振り回されて、」
「困ったこと一度もないよ?迷惑だなんて思ってない。“最低なヤツ”だなんて言わないで」
「なんで……」
「そんなの、好きだからに決まってんじゃん」
ふわりと石けんの香りが私を包む。
強く私を抱きしめる先輩にドキドキと高鳴る。
先輩もドキドキしてる。
「ごめん、俺の方がきっとわがままだよ。だって米倉さんの気持ちもう分かってるつもりでいても手離したくないって思ってる。
……やっぱ俺じゃダメかな」
体は離さず、耳元で囁く。
……ずるいですよ、先輩。
こんなことを言うのは。
それは先輩の心からの願い。
以前の私だったら揺らいでいたと思う。
ここで同じように抱きしめ返していたかもしれない。
「ごめんなさい」
私はそっと先輩を押し退けた。



