「有り得ませんっ。私はずっと先輩のこと――」



口止めをするかのように塞がれた。
いつもするキスとはちょっと違う。押し付けるようなそんなキス。
長いけどものすごく悲しい。


私は先輩の隣にいて、彼女になれて、こんな私を彼女にしてくれたのもものすごく嬉しくて幸せだったのに。


こんな風にしたのは私のせいなんだ。
私の心に揺らぎがあることを知ってるんだ先輩は。
すべて私が――。



「自分を責めないで」



もう一度口づけた先輩がふわりと笑って私の涙を親指で払う。


ああ、なんで先輩はこんなにも優しいんだろう。怒ってくれてもいいのに。こんなワガママで自分勝手な私を怒って欲しい。


せめて、『そばにいて』って言って欲しかった。


初めて先輩を知った時から優しい人なことは分かってたけど、ここまで優しいと私甘えちゃうよ……。



「もう一度自分の気持ちと向き合ってみて、ね? その答えはそれからでいいから。俺のことをこれからも想ってくれるなら、好きだって心から想ってくれるなら、そしたら今度はこの手を絶対に離さない」



先輩の手に力が籠る。
眼鏡越しから真っ直ぐ見つめられるそこに嘘はない。



「ありがとう。俺のわがままを聞いてくれて。待ってるからね」



やっぱり先輩は優しい。


わがままじゃないよ先輩のは。ちっともわがままじゃない。
私のわがままを先輩が聞いてくれてるんだよ。


こんな素敵な人を困らせてるのはこの私だということを忘れちゃいけない。


私は強く頷いた。


「ありがとうございます」


そう言うと先輩は笑ってくれた。