「先輩、私なんかしましたか?」

「ううん。何もしてないよ」

「じゃあ、なんで……」


頂点なんてとうに過ぎて段々と地上に近付いている。

私の“もしかしたら”が無くなって、先輩は“これから”のことを話そうとしているんだと悟ってしまった。


じゃあ何もしてないのになんでそんな話をするの?
だって、それって……。



「別れる、ってことですか……?」



ポツリと呟いた言葉はまるで雨が降り出す最初の雫みたいで、あとから次々と頬を伝う。


「ごめんね」の声があまりにも優しくて、それでいて切ない。


謝るなら言わなきゃいいのに。
そんな苦しそうにするなら言わなきゃいいのに。
なにも、言わなきゃいいのに。



「米倉さんは多分自分の気持ちと向き合うべきだと思うんだ」



いつの間に隣に来ていた先輩が私の手を握ってそう言う。
見上げると目が合ってふわりと笑う先輩が私の涙を指で拭った。


「もちろん好きは変わらないよ。でもね、」

「っ……」

「自分の気持ちに嘘は良くないよ」

「う、そ……?」


嘘ってなんですか。
私がいつ嘘を……?
この気持ちに嘘なんてないよ?


ショックだった。先輩にこんなこと言われるなんて思ってなかった。
私の、葵生先輩への想いは全部嘘だった……?



「ごめんね言い方が悪かったね。米倉さんは俺じゃない誰かを想ってるんだよ」



――っ。

不覚にもドキリとした。


それは先輩にも伝わったようで「でしょ?」と微笑んでいる。

私は直ぐに首を振った。