「やっぱ恋ちゃん怒ってるでしょ」
未だにヒリヒリする頬の痛みを感じながら恋ちゃんを見る。
頬は当たり前のように熱をもってた。
「怒ってない」
「……口、尖ってるよ」
そう指摘しても認めてくれるわけでもなく
静かな沈黙だけが続く。
そんな静けさを破るように玄関から音が割って入ってきた。
お母さんが帰ってきたんだ。
遠くからわずかだけど「恋くんかな」という声が聞こえた。
足音が近づいてくるとソファーに寄りかかっていた彼が立ち上がって玄関の方へ歩いていくから、咄嗟に「ご飯食べてかないの?」なんて声をかけた。
ちょっと自分でもびっくりしてるのは何故か彼の袖を掴んでたから。
恋ちゃんもそんな私を見てほんの少し目が見開かれた気がする。
手を離すと、入れ替わるようにお母さんがリビングに入ってきて
恋ちゃんを見つけてから私と同じことを聞くと
「大丈夫。お邪魔しました」と軽く頭を下げてそのまま家を出ていってしまった。
その流れが計算されてたかのようにスムーズであっという間だった。
なんでこんな寂しく思ってる自分がいるのか、ちょっと分からない……な。



