――バサッ。
その音で引き戻されたように我に返る。
下を見ると本が1冊落ちている。
私が抱えていた本のひとつだと思って拾うと視界に青の上履きが映り込んだ。
私を覆う黒い影。
顔を上げるとそこには葵生先輩。
「大丈夫?」
「……ぁ、はい」
同時に立ち上がるとぐらりと体が斜めに傾いた。
え――そう思った時には既に視界が真っ暗になっていて、微かに知ってるせっけんの香りがする。
「せ、先輩?」
なんで抱きしめられているのか分からなくてただ先輩を呼ぶ私に葵生先輩は「目が赤いよ」と呟いた。
上を向くと先輩の人懐っこい顔が私を見ている。
「泣いてたの?」
「な、泣いてませんよ?多分目にゴミが入っちゃったんだと思います」
「そっか。泣いてないならいいんだ。今日の米倉さんちょっとおかしくみえたからさ。なんかずっと気になっちゃって。俺の考えすぎかな」
そう言いながら抱きしめていた手が私から離れていく。先輩との距離もほんの少し離れてしまった。ちょっぴり残念だけど、ここは図書室だということを忘れてはならない。
そうだよ!ここは図書室!私ってば思いっきり世界に入り込んでた……!
「さ、向こうで続きやるよ」
「えっ、続きって?」
「テスト勉強」



