赤いリップがついた手の甲を見つめながら、高野くんが呟いた。



「俺、
同窓会の時の、ピンクっぽい色のやつの方が好き」



それだけ言うと、『じゃあ俺忙しいから』とレジを離れて行こうとする。


そんな高野くんに、一つ言いたいことがあって、


高野くんのシャツの袖を、キュッと握った。



「あのさ、忙しいから…」


「あの時のは」


「…は?」


「同窓会の時のは…」



同窓会の時、メイクしてたけど…


でも、あれは。



「あれ、透明のグロスだったから、
ピンクのじゃないよ。
もしそれ好きって言うなら、
それ、私の唇の色だから」



『それだけ』と言って、袖から手を離して店を出た。







「……まじか。
めっちゃ恥ずいこと言った…」



店内に残された高野くんがそんなことを言いながら顔を赤く染めていたことなんて、私は知らなかった。