卒業式。
外には桜が舞い散っている。
「支えて下さった地域の皆さん」
「本当に、ありがとうございました」
卒業式でよくあるフレーズが、行き交う。
ありがとう。さよなら。また会おう。
そんな言葉が充満している。面倒くさいったらありゃしない。
不満を抱えつつ、卒業式は終わった。
○o。..。o○.。o○○o。.○o。..。○o。..。o○.。o○○o。.○o。..。
「梢先輩」
「お、鵲じゃん」
鵲千鳥《かささぎちどり》は、私の事をよく世話してくれた子だ。
かわいい物が好きで、よく集めている。
センスがよくて、顔もいつもにこやかだ。
それに、私の事を慕ってくれている。
自慢の男後輩だ。
「なんか、用でもある?」
「用という訳でもないのですが」
彼は、自慢のスマイルを見せてこう言い放った。
「ちょっと人気のない所に行きましょう」
校舎裏には、何人か人がいた。
しかし、皆自分たちの恋愛に夢中なようだ。
(しかし、何する気なんだ…?)
今まで千鳥がこんなところに連れてきたことなんて無かった。
千鳥は、私を壁側に立たせると。
私を挟んで、壁に手をついた。
いわゆる、壁ドンって奴だ。
「なんの真似だ?千鳥」
千鳥は私より身長が低い。
見下ろすようにして言う。
「梢先輩」
「付き合ってください」
今まで見たことのない千鳥の顔。
自分とは違う世界だと思っていた言葉。
それらが目の前で紡がれると、私はきょとんとした。
でも。
私は千鳥にこう言う。
「ごめんな。」
私の口元は柔らかく微笑んでいた気がした。
「どうしてですか」
千鳥が次々に言う。
「なんでそんなこと言うんですか」
「あんなにあなたに尽くして来たのに」
「なんで付き合ってくれないんですか」
「どうして、そんな、ひどい事を」
そう言うと、ぼろぼろと泣き出した。
私の胸元に涙が落ちては零れる。
「ごめんな」
私は言う。
「お前みたいな良い奴には私は似合わないからな」
「僕には‼あなたしかいないんです‼」
「それに」
千鳥の喋りを遮る。
「気が変わるかもしれないだろ?」
「そして、お前はまだ高校一年生だ」
「若者の可能性を潰したくないんだ」
そう言って、曖昧に笑った。
千鳥がふいに泣き止む。
泣き腫らした目を擦りながら言った。
「…では、約束をしてくれませんか」
「約束?」
「五年後に。僕が誰とも付き合っていなかったら」
「僕と付き合って下さい」
「…ああ、いいよ。約束だ。」
可愛い後輩の頭を撫でながらそう言った。
約束は、守らないとな。