「やだ。だれ? いつからなの、明緒(あきお)!」
「ちょっ! 待ってって、涼子(りょうこ)
 これって、もしかして――。

 設問解答その1。あたしが慎吾をふった。
 その2。理由。ほかに男がいるから。
 …ってこと?

(う…、そぉぉぉぉぉ!)

「ちょ…慎吾(しんご)
 説明しなさい。
 せまってくる涼子の肩を手で押さえ、かろうじて45度回せた首で、少し上にある慎吾の顔をとらえてにらみつける。
 満員の車内でサンドイッチ状態から逃げ出す方法はなくて。
 声を荒らげて注目されたくなかったら、会話はもう表情でするしかない。
 慎吾はコドモみたいにふてくされた顔で、唇をつきだした。
「だって、そうなんだろ?」
 なにが、そうなんだ。
「ひどい! あたしに黙ってカレシ作るなんて、ひどいよ、明緒」
(うわぁーっ)
「ちょっ…待ってよ、涼子」
 ちがう、ちがう、ちがう。
 自由になる首をぶんぶん振って、あせりまくるあたしの肩を
「だから――。おれがそばにいたほうがいいと思うぜ? おまえ的にはさ」
 ぐいっと引きよせたのは慎吾の手。
「ちょっ、なっ」
 ぴとりと慎吾に張りついた背中を、あわてて離そうとしているあたしの腕を、涼子が思いきり胸の谷間のなかに引きこんだ。
(やわら、かぁーい)
 いや、ちがう、ちがう、ちがう。
「…………」「…………」「…………」
 また訪れる沈黙。
 ぇと…つまり…、ぇと……なに?

 たぶん、それぞれが言葉をなくした意味はちがうんだろうに、あたしがまだ胸で止まった息をはきだせないでいる間に、がたんと揺れた電車の動きとともに、前後から吐き出された吐息。
「いいわ。つきとめるまで…許す」
御意(ぎょい)
 えええええええ!?