でも、なんとなくどなれないのは、さっきのアレが、まだ耳に残っているからだ。

『おれ……ずっと、つらかったんだ。なんでおまえにきらわれたのか、ずっとわかんなくて――つらかった』

(はぁ……)
〔ため息なんか、つくなよな〕
 電話の向こうで慎吾(しんご)が笑う。
 答えないでいると、
〔なぁ……〕突然、口調が変わった。
〔おばさん、知らないんだ? おれたちのこと〕
「あたりまえでしょ? アンタはいちいち親になんでも話すわけ?」
 言い返しちゃってから、しまった…と思ったけど。
〔なるほど〕
 慎吾が答えて、これで会話が成立。
 だから電話はイヤなんだ。
 にらみつける顔がそこにないと、黙ってることもできやしない。
明緒(あきお)……?〕
 なによ。
〔おれ、な。さっき…言い忘れたことあって……〕
 それきり黙った慎吾にじれて、なに? 聞きたかったけど。
 聞いたら負けみたいな気がして、じっとがまん。
〔なあ、明緒?〕
「…………」
〔おれたち、また友だちに…なれないのかな?〕
「…………っ」
 返事をしなかったのか、返事ができなかったのか。
 自分でもあやふやで。
「お母さん!」
 ごまかすみたいに声をはりあげる。
「話、おわった。バトンタッチ!」