とたんに思い出は消えて。
 ムラムラ蘇るのは怒り。
 にらみつけて戦闘態勢を整えていると、不思議な物に気がついた。
 なに?
 そこに持ってるの――まさか、通学に使っているナップサック?
「あ、これ?」あたしの視線に気づいた藤島が、肩をちょっと揺する。
「おれ、まだ家に帰ってねえんだわ。やっぱ、ちょっと早かったな、9時は。これでもかなりいそいで帰ってきたんだけど」
 なんだ、と?
 まだ。家に。帰って。ない?
 あきれて、ものも言えない。
 クラブに通ってるやつが、まさか塾でもないだろうし。
 どういう生活してるのよ。
 あたしの軽蔑まるだしの視線に気がついて、藤島が立ち止まる。
 なにかを言いかけて開いた口が、
「ま、いいか」つぶやいて閉じた。
「――――で?」
 ()いてきたのはもちろん、あたしの話はなんだ? ってことだろうけど。
(わかってるくせに)
 どうしてこう、こいつは、あたしの調子をくずすのがうまいんだ。
 学校じゃ、あんなにひとのことを、にらみたおしてるくせに、うつむいたりして。
 それ以上近づいたら、またスネに()りを入れてやる!
 気合を入れたとたん、いきなり進路変更するしぃ。