ちょっ…待て!
 あとを追おうとしたあたしを、涼子(りょうこ)が廊下に足をふんばって引き止める。
「いいから! いいから、明緒(あきお)。もう藤島(ふじしま)くんのことは、ほっといて!」
「だって、涼子!」
 だって、そんな。
「お願い! 明緒っ!」
「涼子……」

 なんで、かばうの?
 なんで、あんなやつを。

「あたしに、まかせて!」
 止められない怒りで、涼子の腕を振りはらう。
「明緒!」
 そのまま校則も忘れて、廊下を走って、走って。
 やっと藤島に追いついたのは生徒玄関。

(やっぱり!)
 まだみんな掃除をしているのに、帰る気まんまんじゃないの。
「ちょっと!」
 煮えくり返りそうに腹立たしい気持ちをグッとこらえて、その背中に声をかけたのに。
「…………」
 藤島は振り向きもしない。
 くつ箱から茶色のモカシンを引っぱり出して、うわ靴を脱ぐ。
 そのシャアシャアとした態度に、声なんかかけた気まずさと後悔で、あたしのほうが頭をかきむしりそうになったとき。
「9時に、噴水公園で」
 藤島がぼそっと返事をよこした。
 ――えっ?
 しばらく、なんの感情もわいてこなかったのは、その返事があまりに予想外だったせい。
 頭から吹き上がるみたいな怒りがこみあげてきたのは、藤島がさっさと靴をはいて、生徒玄関を出ていってからだった。

「ちょっ…」
 なんだってえぇぇ!?
 9時?
 9時ってまさか、夜の9時か?
 し…かも。
(しかも……)
 噴水公園だぁ?
「それって……、それって……」
 くらっときて、あわてて壁にへばりつく。

『だって明緒、おまえ女じゃん』

 頭のなかをグルグル回っているのは――
 4年前の。
 あのときの。
 アイツの言葉だけ。

「…………っ」
 怒りでめまいがするとは思わなかった。
 噴水公園。
 それは、あたしたちが毎日毎日、幸せに遊びほうけていた場所。
 そして。
 あたしが、ある日突然、入れなくなった場所。
 コロシテやる!
 それが罪にならないのなら、あたしは絶対アイツを殺してやる。