アイツが悪い! 絶対悪い!
 それなのになんなの? 
 アイツの態度。

 このごろあたしがアイツの視線を感じているのは、絶対、気のせいなんかじゃない。
 たぶん脚を()られたことを根に持って怒ってるんだろうけど。
 あたしは謝ったのに――本気じゃなかったけど――ちょっとしつこくない?
 も、最っ低の、げろげろ男!
 だいたい4年間も知らん顔してたくせに。
 本当の本当に無関係でいてほしくなってから、いきなり正面切ってケンカ腰になってくるところが気に入らない。
 子分だったくせに。
 いつだって、あたしにへばりついて遊んでもらいたがっていたくせに。
「あああ、もう!」
 クラスのみんなは、おもしろがって探りにくるし。
 やってられないよ、もう。

 どれもこれも、ちがうって反論できるあたしはいいけど。
 涼子(りょうこ)が――ひとりぼっちの涼子が――どんな思いでいるかと考えると、授業もろくに聞いていられない。

 ……そう。
 ふと気がついたら涼子はひとりだった。

 登校するのも、お弁当を食べるのも。
 休み時間もぽつんとひとり。
 涼子が体育を見学している本当の理由に、あたしはしばらく気づけなかった。
 体育の授業の前の準備体操みたいに、いつだってあたしが涼子の相手をしていたことを、代わりにしてくれる子がいなかったんだ、涼子には。